愛媛県 持続的な地域産品の需要拡大へ デジタルシフトは販促の起爆剤

2020年06月01日

愛媛県総合政策課デジタル戦略室企画グループ担当係長 森 俊人氏


※本記事は、2020年6月号 事業構想大学院大学 月刊「事業構想」から転載したものです。
※役職など、記載の情報は2020年6月時点のものです。


都道府県では初のデジタルマーケティング組織を2018年に設置した愛媛県。2019年からは楽天とEC・デジタルマーケティングによる県産品の販促を進めている。取り組みを通じ、県内事業者の積極的なデジタルシフトを後押しする。



新組織設立で県庁全体のデジタル活用を推進


愛媛県では2012年度、県庁内に「愛のくに えひめ営業本部」を設置。県内の生産者や事業者の営業活動を後押しする補助エンジンと位置づけ、県産品の国内外における販路開拓・拡大を進めてきた。


また、2018年4月にはデジタルマーケティング推進を使命に業務を行う「プロモーション戦略室デジタルマーケティンググループ」を設置。これらは、国内の都道府県で初のデジタルマーケティング組織となった。


「設立当初は2名でしたが、これまでのような実施して終わりではなく、立てた仮説に対する検証を意識しました」。愛媛県総合政策課デジタル戦略室企画グループの森俊人氏は説明する。初年度は実施体制を構築し、「愛媛県デジタルマーケティング基本戦略」を策定。そして、まずはインバウンド誘客促進でデジタルマーケティングによる施策に取り組んだ。


一方、デジタルマーケティングの推進では、庁内における理解を促進する必要もあった。デジタル活用に懐疑的な声も庁内にはあった中で、具体的な事例を作り、理解を広げていくことを目標とした。そのためにもマーケティングと関連が深い庁内の12部署を横断する「デジタルマーケティング推進チーム」も結成し、2019年度からは全庁的なセミナーや推進会議を定期的に開催。「現在は私たちの部署が相談窓口のような役割を果たしていますが、将来的には県庁全体で皆が当たり前にデジタルを使えるようになることが理想です」



楽天との連携を契機に成果にこだわるPDCAを回す


愛媛県では2019年度から、楽天とともに、新たにECとデジタルマーケティングによる県産品の販売促進を開始した。「デジタルマーケティングはあくまでも手段であり、目的ではありません。自分たちで目的や今後の理想を考えることが重要です」
その思いに共感し、どういった成果に繋げられるかをより明確に示してくれたのが楽天だったという


「庁内に広げていくためにもデジタルマーケティングが成果につながることを見せたかった。そこで、PRのみならず販売チャネルを持ち、事業モデルを明示できた楽天の方々に協力していただくことになりました」


広告配信では、県が制作したプロモーション動画の視聴などに基づき、広く関心層にマーケティングを実施した。その中の「潜在的な愛媛県産品愛好者層」の受け皿になる特設サイト「愛媛百貨店」を楽天市場内に設置。また、地域産品のブランディング施策の一環として愛媛百貨選で公開した動画の視聴回数は、2020年2月までに約691万回に達するなどの結果がでた。


楽天市場内に「愛媛百貨店」をオープンし、県内事業者の商品販売を後押し


県産品をアピールする「愛媛百貨選」では、個人に加えB to B取引の活性化も目標だ


「愛媛百貨店」では2019年、2度の販売促進キャンペーンを実施。第1弾を9月に、第2弾を11月中旬~12月下旬に実施し、目標の3億円を大幅に上回る売上を達成した。キャンペーンでの購入者のうち、約70%は新規の顧客だった。「楽天ユーザーからターゲット層を分析し、効率的に広告で誘導することでこの成果に結びつきました。特にECキャンペーンはお客様の反応が良かった」


一方、第1弾のキャンペーンでは売上の76%を果物が占め、その大部分が柑橘だった。このため、第2弾のキャンペーンでは柑橘以外の販売も促進するための戦略を楽天とともに練り、クーポンを配布するなどした結果、タオルなどの商品の売上も増加した。


「県産品販売の取り組みは、消費行動データを分析し、ターゲットを定めて行ってきました。動画がどれだけ視聴され、どれだけの購買につながったかといったデータも得られ、有望な地域資源は何かということも見えてきました。これらの取り組みを通じ、プロモーションの効果を可視化する1つのモデルができたと思います」


そのECで蓄積したデータを活かし、事業者向けの情報発信として、県産品への興味関心を醸成するポータルサイト「愛媛百貨選」を公開。愛媛百貨選では、伝統を紡いできた優れた技法や市場価値の高い商品を「すごモノ」、優れた食材や食品を「すご味」とし、データベースで紹介している。また、愛媛百貨選では事業者からの問い合わせや事業者同士のマッチングにつなげることが最終的な目標となっており、この点でも一定の成果があった。


県では、キャンペーン期間中の購買層や購買の時期、動画やサイトの閲覧状況など、愛媛百貨店と愛媛百貨選で得られたデータを基に営業活動に資するレポートを作成。フェアの開催や展示・商談会への出展など県の営業活動に活用するだけでなく、県内事業者による「より売れる」商品開発や販売戦略構築にも生かす計画だ。



地域の事業者育成で持続可能な地域経済発展を


愛媛県によるデジタルマーケティング推進策は、事業者を後押しする補助エンジンという位置づけになっている。最終的に目指しているのは、「愛媛百貨店」での成功モデルをもとに、各事業者が自らデジタルマーケティングの仕組みを理解し、ECに関するスキルを向上させ、全体の底上げをしていくことだ。


このため、県では楽天とともに、各事業者を対象とするEC講座も実施している。参加者へのアンケートでは、「概念だけでなく、具体例が伴っていて良かった」、「モール型のサイトにおけるSEOの考え方を学べて非常に役に立った」などの感想が聞かれ、全体的に満足度は高いという結果が得られた。


「県内事業者の積極的なデジタルシフトの流れは、大きな実需を生み出す機会だと考えています。私たちの目的は、成長を続けるEC市場での県内事業者によるビジネスの維持拡大に向けて、デジタルマーケティングを活用した販売促進モデルを確立することです」


県ではデジタル化の取り組みを強化しており、2020年度からはプロモーション戦略室が「デジタル戦略室」となった。県の施策において、積極的にデジタル化を進めていく。蓄積したデータを、楽天と協力して引き続き分析を進め、さらなるデジタルシフトを加速していく。



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