都城市 民間との共創でふるさと納税を起点に地場産業を活性化

2021年11月01日

池田 宜永 都城市長(左)、野原 彰人楽天グループ 執行役員 コマースカンパニー COO&ディレクター


※本記事は、2021年11月号 事業構想大学院大学 月刊「事業構想」から転載したものです。
※役職など、記載の情報は2021年11月時点のものです。


「結果を出す自治体経営」を実践する宮崎県都城市。2020年度のふるさと納税では、受入額で全国一位だった。2019年には、楽天(現:楽天グループ)との包括連携協定を締結。EC、観光、キャッシュレスなど、同社の持つ幅広い知見やデータを活かし、地域の魅力発信と関係人口創出への取組みを加速する。


地域の経営資源(ヒト・モノ・カネ)を活用し、地域の発展や安全・安心の確保を図る自治体経営を実践する都城市。全自治体横並びの時代から、個性ある地方、魅力ある地方への転換が求められる中、競争の中で常に切磋琢磨する民間企業の感覚が、地方行政にも活かされている。



民間の経営感覚を地方行政に


都城市の池田宜永市長は「役所にも、市民が望んでいることをしっかりと捉えて政策を作り、結果を出していくという意識が必要です」と話す。


池田市長は就任から9年、こうした自治体経営の考え方を軸にタクトを振ってきた。特にヒトづくりに力を入れ、『都城フィロソフィ』を策定し、職員の能力、やる気をさらに引き出すことに意識を傾けてきた。


「職員1人ひとりが成長することで、組織が成長し、良い政策が生まれ、市民サービスの向上という成果に繋がると思っています」(池田市長)


ふるさと納税は、数字で結果の見える取組みとして、職員の意識をより一層向上させるにはもってこいと言える。


池田市長は、市長就任前の2008年から粛々と続けてきたふるさと納税を、都城市の対外的なPRツールとして、就任後の2014年に大きくリニューアル。それまで、年間200~500万円だった寄附額を、リニューアルから半年で年間5億円まで増額。その後、2015年度、16年度と連続して日本一。直近の2020年度は、納税受入額135億2500万円で、受入額で全国1位となっている。



行政の公平性の呪縛から脱しコンセプトを尖らせる


ふるさと納税改革の成功には、大胆なコンセプトの見直しがあった。自治体行政にはどうしても、公平・平等の呪縛が付きまとうが、池田市長はそこから脱却。都城市が最も強みを持つ「肉と焼酎」に特化したふるさと納税を構築した。


一点集中のアピールが功を奏し、「肉と焼酎の都城市」として知名度が上がり、楽天との連携も相まって、寄附額は一気に増額していった。現在は、肉と焼酎以外にも幅を広げ、約130社の返礼品提供事業者が地元産品を揃える。寄附額の5~6割が楽天のプラットフォームを通じて集まっているという。


「事業者同士で協議会を作っており、PR活動や社会貢献活動など、様々な活動が行われています。そこに市や楽天の担当者も加わり、官民一体となって切磋琢磨し、盛り上げてきました」(池田市長)


集まった寄附は、半分が市の手元に残り、半分が地元事業者や地域住民サービス等へ還元され、地域経済の活性化にも繋がっている。


「ふるさと納税は、①市の対外的なPR、②地場産業の活性化、③市の収入の増加、④職員の意識改革と、『一石四鳥』の取組みだと思っています」(池田市長)



地域PRから関係人口創出へ


都城市では、ふるさと納税を入口に、地域のPR、知名度向上からファンづくり、観光促進へと繋げ、関係人口を増やしていく政策を進めている。


同市では2019年2月、楽天と包括連携協定を締結した。同協定に基づき、楽天グループの提供する様々なサービスを活用し、ふるさと納税の振興はもちろん、都城市の魅力を伝える「都城市ファンクラブ」の設立、「楽天市場」を活用した市内事業者のEコマースを活用した市内事業者の販路拡大、キャッシュレス化の推進、観光振興などに取組んでいく。


楽天グループ執行役員、コマースカンパニー COO&ディレクターの野原彰人は「楽天の創業ミッションは『インターネットで地方を元気に、日本を元気に』です。ふるさと納税というのは、ある意味、分かりやすいきっかけづくりになりますので、そこを中心に楽天経済圏を活かしながら、各自治体のパートナーとして地域課題を一緒に解決していきたい」と話す。


都城市では、2019年3月に「極上!みやこのじょう!楽天市場店」を「楽天市場」上にオープンさせた。これにより都城ファンをふるさと納税と物産の両面から訴求できる仕組が整った。さらに同年4月から、楽天の運営するレシピサイト「楽天レシピ」で、地元産品を使ったレシピを公開している。また、関係人口の創出に向け、都城が誇る日本一の肉(Meat)と焼酎に出会う(Meet)ことができる、ミートツーリズムなどもスタート。


「都城を知っていただき、好きになっていただき、来ていただいて、食べて買っていただく。そうした形で関係人口を1人でも増やしていきたいと思います」(池田市長)



デジタル化による発展の可能性


都城市では、2019年、全国に先駆けて「都城デジタル化推進宣言」を行っている。この4月からは統括本部を作り、池田市長自らがCDO(最高デジタル責任者)となり、スピード感を持って施策を進めている。


「地方にとってデジタル化は、物理的な距離をなくすものだと思っています。東京にいなくても仕事ができるといった話も含めて、デジタル化は地方にとって活性の力になると考えています。楽天さんの力も借りながら、全国に先駆けてデジタル化を進めていきたいと思っています」(池田市長)


一方で、野原は「デジタル化を通じた地方の発展には、まだまだ可能性があると思っています」と話す。


インターネット、DXを通じ、地域は様々なメリットを享受でき、今まで不可能だった取組みが可能になる。


「マイナスをゼロ、ゼロをプラスにする。地域課題を解決し、プラスαのサービスを提供することで、より良い地域社会作りを一緒にお手伝いをしたいと思っています」(野原)


その入口としてふるさと納税を利用し、そこからEコマースや旅行に繋げる。楽天グループ全体の幅広いサービスを活用して、自治体との経済循環モデルを構築、地域と共に発展していくことを目指している。


楽天が構想する自治体との経済循環モデル。楽天ふるさと納税を起点に、将来は楽天経済圏の各種サービスを活用していく計画


「一民間企業として、単に利益を上げるだけでなく、その収益や培ってきたノウハウを少しでも社会還元できるようにしていきたい。そして 先進的な都城市との協業モデルを、全国の自治体へ横展開していきたいと思います」(野原)



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