若者と大人が手を取り、未来の街を考える仕組みづくり 〜長岡市と楽天の新たな挑戦『長岡未来デザインコンテスト2022』〜

2022年12月23日


楽天グループ株式会社(以下「楽天」)は現在、各地と包括連携協定を締結し、地域社会の発展に向けて協働している。

2022年頭には、新潟県長岡市と締結。そして、産学官連携のプロジェクトを実施した。それは未来の街づくりを見据える、大きな第一歩となった。



10年後、長岡が日本一“○○な人”が集まる街に

2022年1月、長岡市と楽天は包括連携協定を締結した。地域が抱える課題の解決に向けて連携する協定で、その一丁目一番地が「大学等連携による次世代育成に関する事項」だ。


市内には長岡技術科学大学・長岡造形大学・長岡大学・長岡崇徳大学に加えて長岡工業高等専門学校の“4大学1高専”があり、在学生だけで約5000人を数える。各校へ通うため、県外からも若者が集う。


この特徴を、活かしたい。そのため長岡市は、市内4大学1高専の特色と専門性や若者の自由な発想を活かし、人材育成と産業振興を推進する『NaDeC構想推進コンソーシアム』を産学官で組織し、共同で事業を行っている。


コンソーシアム運営委員で、ながおか・若者・しごと機構 事務局長の間嶋 晃洋氏は、包括連携協定における次世代育成の目的をこう語った。


「多くの学生がせっかく長岡で学んでいるのですから、長岡のことを知っていただき、最終的には就職してもらいたい。ところが学生に企業の魅力がなかなか伝わらないこともあり、4大学1高専の卒業生でそのまま長岡に残るのは2割程度という状況が続いてきました。そのようななか、企業や市が抱える課題の解決策を考える『課題解決型プログラム』を実施したいとの提案を、長岡高専からいただいたのです。市としても、市内企業への関心や長岡に対する愛着を持ってもらい、長岡での就職や定住に少しでもつながればと思い、実施に協力してきました。このような経過があるので、今回の包括連携協定への協力もスムーズに入っていけたのです」


SNOWYのグループ(手前)とフィードバックセッション中の間嶋氏(写真奥左側)


そして楽天は長岡市とともに、『長岡未来デザインコンテスト2022』というプロジェクトを立ち上げた。
テーマは『10年後、長岡が日本一“○○な人”が集まる街になるためのアイデアを考える』。


参加資格は4大学1高専の在学生で、8月に開催する『長岡アントレプレナーシップサマープログラム』に参加が可能なこと。

学生たちがグループを組み、10月に行われる発表会『長岡未来デザインコンテスト2022』に向けて、テーマに沿ったアイデアを練り上げていく。


アイデアを考える学生、見守り助力する大人たち

『長岡アントレプレナーシップサマープログラム』では髙見 真二副市長や楽天グループ創業メンバー・小林 正忠と『楽天市場』出店店舗講師陣による講演、学生のビジネスアイデアに対する長岡市職員や講師とのフィードバックセッションが行われた。学生側は、3〜4人で編成したグループが10組参加した。


また、今回のプロジェクトを語る上で欠かせないのが、講師の存在だ。


新潟県を代表する『楽天市場』出店店舗の経営者3名が、講師として参加してくれた。オファーを快諾してくれた根底には、こんな思いがある。


原商株式会社 原 和正 氏



「当社は小さいので、少しでもいいから長岡市の力になれないかと感じておりました。私は高校まで長岡で育ち、当時は『つまらない街だな』なんて思っていましたが、実は可能性の広がるチャンスがたくさんありますし、それを広げることは大人の責任です。そんなことを考えていた矢先にこのお話をいただき、ぜひやらせていただきたいと思いました」


最終日は、現段階でのアイデアをグループごとに発表。その後、学生はアイデアを持ち帰り、ブラッシュアップを重ねてゆく。市職員や講師陣はこの期間も、迷い悩む学生に手を差し伸べながら伴走した。


いよいよ本番。磨き上げたアイデアを発表

10月23日、『長岡未来デザインコンテスト2022』当日。学生たちにとっては、磨き上げてきたプランを発表する日だ。



8月のプログラムから学生を見守ってきた髙見副市長や『楽天市場』出店店舗講師陣をはじめ、7名が審査を行う。


タイの留学生2名と日本人2名で構成された『SNOWY』が考えたのは、『長岡雪像祭り』。雪像作りに向く水分の多い長岡の雪を利用して、雪像大会を開催するという企画だ。既存の『長岡雪しか祭り』とのコラボも可能だという。


最も多かった案は、企業と学生をつなげる企画。企業と学生をマッチングするアプリや、インターンシップを通じた職業体験イベントなど、当プロジェクトの真の目的である“長岡に就職・定住してもらう”ことを睨んだアイデアだ。


審査の結果、準グランプリを受賞したのは『SNOWY』。



審査員でもあり、NaDeC構想推進コンソーシアム 運営委員・長岡商工会議所 事務局長で、『長岡雪しか祭り』を担当している長谷川 和明氏から「第37回を数える『雪しか祭り』ですが、そろそろ何かを変えたい時期に入っています。みなさんの力を貸してもらいたいので、ぜひスタッフに入ってください!」との申し出が。このプログラムを通して見ていた夢が、現実となった瞬間だった。


グランプリは、『たきちる』の『NGOK Innovation Challenge』。



彼らのアイデアは、「長岡一丸となって行う、企業と学生をつなぐ長期型インターンシップ。企業から学生のアイデアを活かしたいプロジェクトを募集し、興味のある学生にはプロジェクトに参画してもらい、若者のアイデアを活かしながら企業の課題を解決する」というもの。


髙見副市長より「長岡の産業界と大学がどう連携していくかを、具体的かつシステマティックに提案してくれました。プレゼンの完成度も高く、『このまま働いてもらいたい、長岡に残ってもらいたい』という期待も込めてのグランプリです」と、最高の賛辞が贈られた。


各審査員からの総評があり、『長岡未来デザインコンテスト』は閉幕。受賞に顔をほころばせる者、思うようにいかなかったプレゼンに涙する者…。学生たちにとっても、熱い3カ月間だった。


それぞれの想いが、未来の長岡を創る

コンテスト終了後、受賞した学生に感想を尋ねた。


グランプリ【たきちる】金澤 智さん

「長岡って、学生からすると遊ぶところが少ないしアクセスも悪いしで、住みづらい街だと思っていました。でも今回、副市長さんや長岡市役所の人に話を聞き、長岡を良くするプランを考えたことで、街が抱える課題と、逆にいいところも再発見できました」


準グランプリ【SNOWY】井塚 杏奈さん

「今回のプログラムを通して、素晴らしい経験ができたと思います。もともとイベントで雪像を作ることが目標だったので、商工会議所の方から『スタッフとして参加してください』と言われて本当にうれしかったです」


講師からは、こんな感想が。


左から講師の株式会社シバデン 三ッ谷氏、加藤製菓株式会社 加藤氏


加藤製菓株式会社 加藤 一弥 氏

「私自身も長岡の出身ですし、原さん、三ッ谷さんとはよく勉強会をしていた仲間なので、楽しいことを一緒にやれればという思いで参加させていただきました。実際に関わっていくなかで、長岡市の大人がこんなに子供に優しいとは思いませんでした(笑)。若者が思っていることや課題だと考えていることを誰もがしっかり受け止めようとしていて、とてもいいプロジェクトだったと思います」


株式会社シバデン 三ッ谷 大 氏

「僕は燕市の人間ですが、長岡市さんと初めてプロジェクトを行い、市役所のみなさんの前向きな姿勢や積極性に感動しました。将来的には、これが新潟県全体に広がるといいですよね。新潟県は売る商品が多いわりに、EC化率の低い地域だと思います。そこを我々のようなECのベテランがサポートすることで、『新潟県はECがすごいんだよ』という結果につながったら理想的です。そのためには若い力が必要なので、知識を伝えたり、逆にアドバイスをもらったりしながら一緒に進んでいきたいと思っています」


アイデアの実現に向け、継続して取り組みを

学生たちはそれぞれ、充実感と達成感を味わったようだ。また今回のプロジェクトを経験したことで、長岡に対する見方に変化があったり、さらなる未来を考えている人も少なくない。


一方、講師陣も若者から刺激をもらいつつ、地元のよさを再確認できた模様。この循環が続けば、長岡市にいい影響をもたらすことは間違いないだろう。


立ち上げから当プロジェクトに尽力してくれた、長岡高専で教鞭を執り産学官連携の地域創生教育研究推進室長でもある村上 祐貴教授が振り返る。


左から講師の株式会社シバデン 三ッ谷氏、原商株式会社 原氏、加藤製菓株式会社 加藤氏、長岡工業高等専門学校 村上 祐貴教授


「『自分たちが住んでいる街をどう作っていけばいいか』というテーマは僕にとっても新しい試みで、新鮮でした。大人になると、自分の街をよくしたいという想いは強くなります。それを若いうちに考えてもらう、いい機会となりました。


長岡を盛り上げるには、長岡ファンを作ることが必要だと思います。そのためには、長岡のことを知らなくちゃいけません。このプロジェクトを通じて長岡のいいところや足りないところを学生が自ら見つけて、改善したり発信していくことが継続的にできたら、若い人たちが残ってくれたり、出て行ったとしても長岡と関係する仕事に就く…、そういうところにつながっていくと思います。それが、本当の地方創生になるのではないでしょうか」


当プロジェクトに立ち会った間嶋氏は、こう総括する。



「学生のアイデアは新鮮で、思いもつかなかったものがありました。私が関わらせていただいたSNOWYの企画は、最初は“なぜ雪像?”と思いましたが、チームにタイの留学生がいたことが大きいのです。彼らにとっては、雪自体が珍しい。SNSを使って雪像を発信したら、海外から反響がある。その視点は、我々にはないものでした。


今回楽天が入ることによって、新しい取り組みが二つありました。


一つは、ふるさと納税や企業版ふるさと納税を活用しようという点。過去には学生のアイデアを実践しようとしても、誰がどう資金を確保するかが決まらず断念したことがありましたが、新しい資金の提供方法を教えてもらえたことは大きかったです。


もう一つは、講師として加わってもらった楽天市場の店舗さんの存在です。消費者のことを考えて売り込みや戦略を練り、実績を挙げているECサイトの先駆者たちが、その考えを元に学生たちのアイデアを実現させるためのアドバイスをする光景を見て、“すごい仕組みだな”と思いました。“これは実現できないよ”と意見を潰してしまうのではなく、学生のアイデアのいいところを活かしつつ、行政とは違った視点で実現に向けたアドバイスをしてくれたんです。学生たちのアイデアの実現に向け、これからも楽天とタッグを組んでいきたいです」



長岡市と楽天は、街と若者の未来を見据えて第一歩を踏み出した。そう、これは第一歩。この先も続けていくことが重要であり、それを実現できることが当プロジェクトの大きな強みでもある。若者と大人が手を取ってよりよい街へと進化させるための、着実に前へ進む歩みだ。

関連記事

おすすめコンテンツ