2024年10月28日
2024年7月8日、楽天グループ株式会社(以下、「楽天」)は長野県と包括連携協定を締結した。楽天にとって自治体との協定は51例目で、今回は通常の自治体・楽天側からの両者代表に加えて、長野県内の地元の小学生も式典に参加した。長野県・阿部知事、楽天常務執行役員CWO(Chief Well-Being Officer) 小林正忠に小学生が質問を投げかけ、未来の対話を行った様子をレポートする。
「なぜ、地元小学生が参加することになったのか」
今回の楽天・長野県との包括連携協定のスタートは、締結1年前の2023年7月にさかのぼる 。 長野県職員と楽天社員で「2030年の長野県の未来を考える」をテーマにした「未来共創会議」を長野県・飯綱町「いいづなコネクトEAST」で実施した。そこでは、「未来を見据えた持続的な地域社会の発展」を目指し、テーマ抽出から両者で考え、取り組み の方向性とその内容を話し合い、協定項目の原石となった。
その後、協定内容が創り上げられ、協定式会場に関して、当該協定の原点となった「未来共創会議」が行われた飯綱町「いいづなコネクト」に決まっていった際、①「いいづなコネクト」が小学校校舎をリノベーションされて建てられた場所だった点、②2023年7月の「未来共創会議」が「長野県の未来」について話し合われた点、から、当該協定式には、大人だけでなく、未来を担う子どもたちにも参加していただき、長野県と楽天との未来への誓いを見届けてもらおうとなった。
そこで、長野県・楽天から、「いいづなコネクト」がある飯綱町役場に、小学生との連携を相談したところ、同施設の場所にあった旧三水第二小学校の統合先となる三水小学校から連携協力の承諾をいただき、話を先に進めることとなった。
三水小学校
住所:長野県上水内郡飯綱町普光寺179
沿革:平成30年に三水第一小と三水第二小が統合
町の教育基本方針:
基本方針1
ふるさとの誇りをもって豊かに人生を歩める力を育む教育環境をつくります。
基本方針2
スポーツや文化芸術の価値を共有して、より多くの町民がこれらの活動に親しみ、関われる環境や体制づくりを推進します。
基本方針3
生涯にわたって学べる場や機会を確保し、学びを通じて、地域コミュニティの継承や一人ひとりの豊かな人生の創造につなげます。
「三水小学校との連携」
飯綱町役場・企画課のおつなぎから、三水小学校と包括連携協定も絡めた取り組みが始まった。全体企画としては、楽天が主導として行い、①三水小学校向け「自治体のお仕事/自治体と企業との連携/自治体と企業の包括連携協定について」に関するレクチャー、②「協定式へのこども記者としての参加依頼」、③「協定式で知事・楽天役員に聞く質問を各自で考える」、④「協定式参加の経験に関する感想レポート作成」という4点を提案し、三水小学校・長野県庁・楽天によるコミュニケーションを通じて、この4点で進めていくこととなった。
■小学生と顔合わせ、レクチャー、式典参加依頼
楽天社員・長野県職員のコアメンバーで、三水小学校・6年1組(6年生全員)へ訪問。その日の平常授業の2時間目の1コマとして、①楽天・長野県庁による三水小学校向けレクチャー、②「協定式へのこども記者としての参加依頼」を実施した。担任の土屋先生の子どもたち向けの分かりやすい前段説明をいただきつつ、バトンを受けて楽天の方で用意したスライドを説明していった。こどもたちは、序盤は「どんな話をするのだろう」という表情だったが、後半では投げかけた質問や問いにも複数の子どもたちが答えてくれて、自分達の中で咀嚼していったとうかがえた。また、後半では、今回の包括連携協定へ“こども記者”として参加していただく旨を依頼した。どよめきこそなかったが、子どもたちからは「式典に参加することの緊張感」と「知事・役員に良い質問をするぞ」という意気込みが垣間見られた。
■協定式の質問を各自考案、発表、代表質問の選定
前回レクチャーから1週間後、宿題として子どもたちに考えてもらった知事たちへの質問をクラス全員の前で発表し、なぜそれを聞きたいと思ったのかなどを深掘りする時間を同じく平日授業の4時間目を活用して行われた。
楽天事務局メンバーもオンラインで参加し、クラス全員の質問の発表を聞いたうえで、当日の子ども記者と代表質問候補を選定した。
<宿題内容(レクチャー時)>
こども記者として「知事・役員に対して聞きたいこと(質問)」を考えてみよう。
対象テーマ:農山村の未来、環境問題、高齢者支援、その他(長野県の未来など)
質問の文面だけではなく、なぜそれを聞こうと思ったのか、という背景に、子どもたちの当事者意識や家族と最近こういうトピックで話をした、というエピソードが特に強く表れていると感じた4つを選ぶこととなった。
出そろった質問を見て感じたのは、私たちが想定していた以上に、子どもたちは環境問題や高齢化についてとても身近に真剣に向き合っているということだ。これを子どもたちの言葉で直接首長や経営視点を持つ大人に投げる、というのはとても意義のある取り組みになるのではないかと思えた。
オリエンテーションから約3週間後の7月8日に、長野県との包括連携協定式が執り行われた。
オンライン参加者のPC画面の様子
■式典本番に向けた質問練習~協定式本番
当日はクラス全員が会場入りし、子ども記者の4名は早速本番会場の1階で立ち位置や質問の流れを確認。20数名のクラスメイトは、2階からオンライン中継で記者会見を見守ることに。
4名は当日のために相当な事前練習を積んでいたことがうかがえた。
次第に会場設営が整い、メディア関係者などが会場入りすると、最初ははしゃいでいた子どもたちも徐々に緊張した面持ちになっていったので、運営担当から、リラックスすること、元気よく大きな声で質問すること、何よりこの機会を楽しんでほしいことを伝えた。
本番は、はじめに通常の協定締結の流れで阿部知事および正忠さんによる記者会見とコメントがあったのちに、一般メディアの記者からの質疑応答があり、子ども記者からの質問、という流れで進んだ。いよいよ本番の質問時間を迎え、代表4名から問いかけた質問は下記のような内容であった。
一つ目:テーマは農業
私の祖父と祖母が、米作りをしているのですが、2人とも70歳を超えていて、そろそろ米作りも難しい歳になります。
ですが、2人に後継者はいません。友達やテレビなどからも、同様の話を聞きますが、この点について、県としてどう対応しますか。
二つ目:テーマは人口流出・人口減少
今、若い人が都会に出てしまって、後継ぎがいなくて困っている家が多いとテレビで聞きました。今後、どうしていったらいいでしょうか。僕たちはどのようにこの問題に向き合っていったらよいでしょうか。
三つ目:テーマは環境問題
最近、テレビで地球温暖化について放送しているのを見ました。番組を見ながら、家族と、このまま地球温暖化が進めば、地球に住めなくなってしまうかもしれないと話しました。県では、その対策を考えていますか。
四つ目:テーマは高齢化社会
近年、高齢者の方が増えてきていますが、足腰が悪く、買い物や病院に通いづらかったり、スマホを使い慣れていないので、情報を受け取れなかったりと、大変な方もいると思います。高齢者の方が少しでも暮らしやすくなるように、県では、どのような取り組みをしているのでしょうか。
それぞれの質問に対して、阿部知事からは県で取り組んでいる事例や知事のお考えを、楽天CWO小林からは海外の事例や超高齢化による社会の大きな変容が起きていることなどを中心に、とても気持ちのこもった回答がなされた。子どもたちが一生懸命この日のために質問を考え、向き合ってくれたことに対する喜びのようなものも感じられた。もしかしたら少し難しい答えだったかもしれないが、『未来を担う子どもたちにも参加していただき、長野県と楽天との未来への誓いを見届けてもらう』という今回子どもたちに参加してもらう意義を果たす場づくりができたのではないかと感じる。
無事に記念撮影まで終えた後、三水小学校・6年生28名に集まってもらい、「協定式参加直後のインタビュー」をさせてもらった。緊張しながらも手を挙げて発言する子、発言する子を真剣に見守る子、「包括連携協定の協定式への参加」というなかなかない機会を経験した事をかみしめながらのインタビューの時間となった。発言してくれた子どもたちの直後の感想をそのまま下記に記載する。
【協定式に参加した感想】
・今日は、長野県知事が来ている大きな会に参加して、すごく緊張しました。
・初めて知事に質問して、番組記者さんとか新聞記者さんとかカメラマンさんがいっぱいいて、緊張したけど、いい経験になったのでよかったです。
・長野県知事にお話を聞いて、すごく貴重な体験ができて、楽しかったのでよかったです。
・偉い人の話がこんなに長いんだな、って思いました(笑)
・知事に会ったりして、質問のやりとりも少し長かったけど、いい質問の回答が聞けたので、嬉しかったです。
・知事と楽天役員さんで、回答がお二人で全然違って、同じ質問でも、こんなに違う考え方があるのだなと思いました。
発表してくれた6名とも、式典に参加した直後に残る緊張感と個々で想起されたことを、そのままコメントしてくれた。
また、学校へ戻った後、④「協定式参加の経験に関する感想レポート作成」に各自取り組まれ、全員の感想レポートを楽天にも共有いただいた。これも全て紹介したいが、掲載スペースの都合上、泣く泣く、一部のみに絞って下記記載する。
【協定式参加の経験に関する感想レポート】
・若い人が県を出て行っても、長野県はいい県だなと思ってほしい。
・「課題はチャンスで、その課題を乗り越えたらよりよい県や町になる」言葉にとても共感した。
・「こんなに貴重な体験を小学校からできて、町のことや長野県のことを阿部知事に教えてもらったので、今の年齢から取り組んで長野県民として住みたい」と思った。
・「自我作古」「課題はビジネスチャンス」という言葉が、心に残りました。「自我作古」は、自分で歴史を作れる、「課題はビジネスチャンス」は、失敗は成功のもと、みたいな感じがして、とても共感できました。
・一番心に残った言葉は、「課題はチャンス」ということです。6年生は、生徒会やたてわり地区子ども会など、こまったことや大変なこともたくさんあるけど、それがチャンスなんだと思いました。次から、こまったことや大変な時もそれがチャンスと心の中で思っていようと考えました。これからも、農業、人口流出、環境問題、高齢化社会といった問題にどう向き合っていったら良いのか、考えてみたいです。
・ぼくが一番心に残ったことは、課題は問題じゃない。これはチャンスだということです。チャンスをつかみとれば、ぼく達子どもがこれから未来で長野県を、日本をより良くできると思いました。なので、課題はあきらめるのではなく、挑戦や前向きに取り組み、どんなこともチャンスにしてつかみとりたいと思いました。また、ぼく達の一つのチャレンジがとても大切だということもわかりました。
・今日の協定式で、こども記者の質問の答えを聞いて、どの質問でも私たちにできることを言っていたので、自分たちの行動が問題の解決につながることもあるんだなと思いました。
・長野県では地球温暖化などいろいろなことについて対策をしているんだと知って勉強になった。再生可能エネルギーを使うとか、エネルギーの節約などをすれば地球温暖化も少しはよくなると思った。
直後の感想インタビューでは拾えなかった感想レポート要素で言うと、
・子どもたちは、阿部知事や楽天CWO小林の大人の回答(言葉)を自分たちなりに咀嚼して理解し、かつ自分達の今後の生活やアクションにつなげようとしている積極的な姿勢が端々にみられた点
・子どもたちは、長野県や自分たちの町を愛しており、これからも自分達の生活する今の社会を守っていきたいという地元愛と日本社会全体に対するリーダーシップを感じられた点が印象的であった。
今回、初めて、地域の小学校と連携した「日本の未来と地域課題に対する対話」を行ってみたが、子どもたちと一緒に取り組むことで、「子どもたちは、どんな視点で考えているか」「子どもたちは、未来にどんな期待・希望をもっているか」などといった、【子ども視点】と向き合うこととなり、それは、想像していた以上に、「机上での想像範囲」と「実際に交流して取り組んだ中身」には違いがあった。これからも、今後の未来を担う子どもたちと実際に連携しながら、視点・見解・感想をもらうということも、地域創生において重要であると思った。
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