「第3回自治体地域イノベーションフォーラム~地域内外の繋がりが生む『稼ぐ力』と『持続可能性』のある地域づくり~」開催レポート【後編】
地域内外との繋がりをどのようにつくり、地域の経済循環に活かしているのか。宮崎県都城市、大分県の自治体事例紹介、官民連携と関係人口をテーマにしたパネルディスカッションをまとめた開催レポート(後編)
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2024年09月06日
2024年08月30日
昨今、人口減少や少子高齢化により、地域の課題解決や魅力向上に貢献する観点から「関係人口」へより一層の注目が集まっています。
楽天グループ株式会社(以下、「楽天」)は、2024年8月2日相鉄グランドフレッサ 東京ベイ有明にて「第3回自治体地域イノベーションフォーラム~地域内外の繋がりが生む『稼ぐ力』と『持続可能性』のある地域づくり~」を開催。地域内外との繋がりをどのようにつくり、地域の経済循環に活かしているのか、過去の事例を交えて共有いたしました。ここではその様子を前・後編に分けてお伝えいたします。(後編はこちら)。
※記事中の所属・役職はイベント当時のものです。
プログラム
楽天グループ株式会社 上級執行役員 地域創生事業 ヴァイスプレジデント 木村 美樹
まずは楽天グループ株式会社 上級執行役員 地域創生事業 ヴァイスプレジデント 木村の挨拶でスタート。地域創生事業の紹介と併せて、当日午前に発表・表彰を行った「地域エンパワーメントアワード2024」にも触れ、「皆様に楽天グループを使い倒していただけたら大変幸甚に存じます。また、自治体の皆様と共に歩んでいく存在として、楽天グループも頑張っていきたいと考えております」と述べた。
東海大学客員教授 合同会社公共コミュニケーション研究所代表 河井 孝仁氏
開催挨拶に続いては、東海大学客員教授で、合同会社公共コミュニケーション研究所代表の河井 孝仁氏による基調講演が行われた。
「なんとなく関係人口」では地域は回らない
河井氏はまず「関係人口が注目されているという話ですが、本当なのでしょうか?」と問いかけた。
さらに「定住人口は増えないから、なんとなく関係人口を増やします」という発想で本当に地域が回るのか、頭数としての人口ではなく「地域にどれだけ関わろうとするか」、つまり意欲の総量を増やすことが重要ではないのか……といった現状への課題感を畳み掛ける。
そして定住人口の中でも、地域に積極的に関わろうとする人もいれば、「家賃が安いから住んでいる」という人もいる。逆に関係人口ではなくても、「出身地だから」、「以前住んでいた時の思い出があるから」といった理由で、潜在的にその町に関わりたいと考えている人もいる。なんとなく関係人口と呼ぶのではなく「我々の町には誰が関わってくれそうなのか、あるいは誰に関わってほしいのか」ということを十分に意識する必要がある、と訴えた。
地域内外から『町に本気(マジ)になる力』を
続いて河井氏は、具体的なフローを説明していく。まずはどんな人に関わってほしいかという「潜在的関係人口を定義する」こと。そしてその潜在層が町に関与するきっかけ「関与の窓を用意する」こと。そしてそこから入ってきていただけるように「インセンティブを用意し、ハードルを下げる」こと。
こうして行政が「我々の町はこんな暮らしができると思うけど、どうだい?」と呼びかけることによって関わる人を増やし、行政だけではできないクリエイティブで創発的な取り組みを推進し、より素晴らしい街につくり直していくことが可能になると述べ、「皆さんの力によって定住人口からも、地域外からも『町に本気(マジ)になる力』をどれだけ増やせるのか?」と参加者を鼓舞。そのきっかけをつくるためにふるさと納税という仕掛けは極めて意義があると訴えた。
行政の仕事は「町に関わろうとする意欲資源の獲得」
河井氏はまた「どうやって行政の仕事が的確かどうかを明確にするか」について、「人口」と「意欲」という二次元での発想を提案。行政の仕事は、単にふるさと納税の額ではなく、「どれだけ町に関わろうとする意欲資源を獲得できたのか」ということで考えなければならないと繰り返す。
どうすれば関わっていただけるのか、それは町にどんな魅力があるかを積極的に発信していくことだという。例えば、東京都渋谷区で元気になれる人と山梨県甲府市で元気になれる人は違うはず。だから「我々の町は誰がどんなストーリーを通じて元気になれるのか」、それを行政や地域の人々が踏まえることで初めてアウトプットができると訴えた。
あなたの力がこの町に関わることでこの町がどう変わるのか、あなたはこの町で、他の居場所よりも意味のある人間になれるはず……そういう形をしっかりと提供し、関わりたい状況を行政が作り出していく発想が大事だと呼びかける。
関わろうとする意欲だけで町は元気になれる!
河井氏は最後に「とても大事な言葉があります。『稼ぐ力をどうつくるか』」と力説。
・町を積極的に推奨する層の8割は地元産品を選びたいという一方で、推奨意欲の低い層ではそれが4割に留まる
・町を積極的に推奨する層の9割は『この町で働きたい』という一方で、推奨意欲の低い層では5割が『地元に仕事があってもそこで働く必要はない』という
・町を積極的に推奨する層の8割は共助の負担を受け入れる一方で、推奨意欲の低い層では2割以上が自助・公助を期待する
というデータを示し、「意欲だけで町が元気になるのか?」、「意欲で経済が回るのか?」という疑念を払ってみせた。
単純にメディアを使って情報発信をするのではなく、認知を取って関心を引き「あなた自身の問題」と意識させ、信頼・共感を得て初めて行動を促進できる。行政はそうした仕掛けを用意していくことが必要になると改めて訴え、基調講演を締めくくった。
楽天グループ株式会社 地域創生事業 ふるさと納税事業部 ゼネラルマネージャー 田村 裕二
続いては楽天からのメッセージとして、地域創生事業 ふるさと納税事業部 ゼネラルマネージャー 田村裕二が、楽天の地域創生事業が考える地域との関わりについて語った。
地域創生事業では、楽天が抱える多くのプラットフォームの中から主に次の3つ、「楽天ふるさと納税」、物販産業を支援する「楽天市場」、観光分野の「楽天トラベル」を活用して自治体の方々をサポートしていると紹介。
残念ながら日本、特に地域経済に関しては人口減少という本質的な問題を前に、かなり厳しくなると見込まれること。その中で今後は1人のお客様が複合的にその地域に対して関心を高め、関わっていくという動きを目指していく必要があること。また、そのために本日は3自治体の具体的な事例を紹介するといった旨を伝えた。
山梨県 富士吉田市 ふるさと創生室 部長 萩原 美奈枝氏
萩原氏は2015年に「まちづくり戦略課」でふるさと納税事業を立ち上げた。2017年に専属部署が創設され、その後、現在所属する「ふるさと創生室」として、ふるさと納税と併せてシティプロモーションや移住定住、域学連携なども所管している。
キラーコンテンツがない町のふるさと納税戦略とは?
富士吉田市は首都圏からのアクセスもよく、「富士山・桜・五重塔」が揃った絶景ポイントや、絶叫マシンで知られる富士急ハイランド、富士山を背負ったレトロ商店街にネクタイ生産量日本一の織物工業など多くの特徴があり、インバウンド需要も高い自治体だ。
しかし萩原さんに言わせると「富士吉田にはキラーコンテンツがない」という。聞いてみると、「ふるさと納税三種の神器」と呼ばれる肉・米・蟹や、それに代わるようなコンテンツがないのだという。
富士吉田市がふるさと納税に注力し始めたのは2015年。楽天ではないポータルサイトを導入するところからだった。その後2017年に専属部署を立ち上げ、少しずつ寄付額を伸ばしてきたという。
そのターニングポイントとなったのが、楽天ふるさと納税の導入だった。楽天のECコンサルタントの協力を得て、今までになかったマーケティング視点を持ち、データ分析を行ったことで寄付額は急激に伸びた。
連携を強めることで地域全体を盛り上げる
楽天ふるさと納税の導入後、「多種多様な返礼品」を揃え、「オール富士吉田」で地域の事業者と共にPRに努め、市長からのお礼状には小中学生が描いた絵手紙を添え……ふるさと創生室だけでなく、市全体でふるさと納税へ積極的に関わっている富士吉田市。
注力しているポイントのひとつが「オリジナルデザイン」だ。あちこちにふるさと納税を行うヘビーユーザーだと、もはや「どこから来た返礼品か」もあやふやになりかねない。そこで富士山をあしらったオリジナルの梱包箱や封筒を作り、届いた時の楽しさや富士吉田市への関心に繋げているという。通信販売などの経験がない個人事業主のために、返礼品の梱包の基本を説明する冊子も用意した。
また、卒業後に富士吉田市を離れることが多い高校生に地元の魅力を伝えようと、地元の高校生と連携したPRも実施。市外の方に富士吉田市を紹介するカードや冊子、動画を作るなどしている。また、高校生が企画したツアーに寄付者を招いてアテンドする「ふるさと納税感謝ツアー」は、寄付者をもてなすのはもちろんのこと、地域の高校生の郷土愛の醸成に繋がっている。
これらの取り組みは、富士吉田市に移住し起業した地域おこし協力隊OBも協力し、地域全体の盛り上がりを実感できたという。
データ活用でも好例を持つ富士吉田市。楽天ふるさと納税と楽天トラベルは、1つのアカウントでどちらのサービスにもログインできることから、寄付者に富士吉田市を知ってもらう仕掛けを試みたという。寄付者宛の寄付金受領証明書に、楽天トラベルに掲載された割引クーポン付記事の案内を掲載。富士吉田市への旅行を提案し、名産品を知ってもらう取り組みだ。割引クーポン付の記事を担当しているのは観光課だというから、部署を超えた「オール富士吉田」の一例でもある。
単なる寄付金集めではないことを明確に示していく
そんな富士吉田市が今まさに注力しているのが「クラウドファンディング」だ。ふるさと納税は単なる寄付金を集める手段ではないことを示すために、地域資源のためにどう活用していくか、富士吉田市の経済的な発展にどう投資していくか、といったことがわかるプロジェクトを立ち上げている。
発表時までに「観光スポット改修」、「ジビエ工場による経済循環」など、9つのプロジェクトが成功。そして今年10月26日には、富士吉田市民×ふるさと納税寄付者交流イベント「富士吉田に!ZOKKON!」を富士急ハイランドで開催するという。関係人口を交流人口に、寄付者と市民が交流することで、寄付者にとって身近なまちとなり、市民にとっては、感謝の気持ちを伝える機会となる。寄付して終わりの関係ではなく継続した繋がりを持つことに注力している富士吉田市、最後の最後で、富士吉田市の企画力を実感させられるPRとなった。
後編では、ふるさと納税2年連続日本一を誇る宮崎県都城市の事例、楽天市場でオンラインのアンテナショップを展開する大分県の事例などをご紹介してまいります。
我々楽天は地域における経済対策を共に考え、連携し、その先を創るパートナーでありたいと考えています。
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